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June. 2023
雨の日が多く続き例年に比べて寒かった5月が終わり、ようやく初夏の陽気のミラノ。from MILANO 2月に登場したVicolo Via Mameliのニコラにミラノでのお気に入りの場所を聞いた時に第一声に上がった名前がSignor Lievito(ミスター・酵母)。
彼がミラノで一番気に入っているカフェ併設のパン工房だと言う。フォカッチャやバゲット、ライ麦パンに加えて、ノルディックスタイルのペストリー風のパンや朝食を提供し、美味しいパンを作っているお洒落な工房であることはもちろんだが、彼がここを好きな理由は、なんといってもお店の人が人間として素晴らしいから。
Chikako Gowa(Instagram / chikakogowa)
通訳/クリエイター
大学在学中NYへ交換留学期間、フェアチャイルドパブリケーション広告部にて インターンシップ、パーソンズスクールにてファッション分析について学ぶ。 卒業後、某仏外資系企業に就職。結婚を機にイタリアへ移住。アパレル業界の通訳、2012年よりsen (www.sen-factory.it)のファウンダー兼クリエイターとして活動。彩り豊かな毎日を楽しむ三人の女の子のママ。
ニコラが絶賛する女性は、世界中を旅し、ミラノで恋に落ちた元モデルだったラトビア人女性ナタリア。
「私は、美しい村や歴史があるイタリアが大好き。でも私がイタリアで、愛してやまないのはなんと言っても人、食べ物そしてワインなの。私にとって第二の故郷と呼べるイタリアは、素晴らしい品質のものがある。同時に、とてもシンプルで優れたものがあるの。そのおかげで、私はミラノで、Signor Lievitoをオープンしたことで、この新しい小さなプロジェクトを通じて自分自身を十分に表現することができたと思っているのです。」
ウェブサイト上でも自身が何者かであることを語る場所でそのように紹介している。
なぜSignor Lievitoなのか?
Signor Lievitoは、ナタリアの旦那さんの故郷があるカンパーニャ州にある120年以上の歴史を持つパン屋さんから譲り受けたサワードウにナタリアがつけた名前だという。彼女がパンを作り始めたのは、パンデミック最中のこと。作ったパンを友人にプレゼントしていたところ、みんなに本格的にパン職人として活動することを勧められた。プロ・アマ問わず、多くのパン職人から「サワードウは何年も保存しておくと、強度と品質が落ちるからダメだ」と言われ続けてきたそうなのだが、突然パン業界に足を踏み入れたナタリアは固定観念もなくそれが功を奏して、貴重な120年以上生き続けてきた酵母をリフレッシュして焼き続け、数年前に閉店した老舗のパン屋の伝統を受け継いでいるのだ。
「サワードウはいまだ息をしていて、酸味はなく、信じられないほどの強い生命力を持っているのよ!新しいライフワークであるSignor Lievitoのお店を通じて、わたしの経験のすべてとわたしが作るパンの中に込められたシンプルさへの情熱をみなさんと共有したいの。」とナタリア。
お店は、ハンス・ピアによるデザインによるオーダーメイド空間。「自然であること」をコンセプトにバーチウッドとテラコッタがスタイリッシュでありながらとても温かい空間を作っている。ナタリアの自宅のリビングルームには、大きなレンガ造りの暖炉があり、同じ素材感を再現したかったそうだ。火を使ってパンを焼くという仕事場に自宅で暖をとる場所の一部を持ちこむという選択は、彼女にとって特別な意味をもつ。
朝、散歩がてら歩いて初めてSignor Lievitoを訪れた日。イタリアの一般的なパン屋さんでは見かけないタイプのパンが並び、すべてを食べてみたかったが、私が選んだのは、カルダモンのペストリー。見た目の美しさに思わずため息を漏らした。平日の早朝、優雅に愛犬を連れて散歩するご年配のご婦人や紳士、出勤前に朝食を食べにきた同僚の女性達やファッショナブルな若者達などで、小さなカフェスペースはすぐにいっぱいに。パンやフォッカッチャをテイクアウトして足速に去る人達も絶えない。
ミラノの朝は、バールのカウンターでブリオッシュと呼ばれるクロワッサン型の甘いパンを片手に、立ったままエスプレッソやカプチーノをさっと飲むスタイルが一般的だが、ここでは立ったまま食べたり飲んだりする人はおらず、座り心地の良いソファ席のお陰か皆それほど長居をしているわけではないのにゆったりと過ごしているように見える。シンプルでありながら長い年月生き続けているサスティナブルな素材にこだわり、手間ひまと時間をかけてじっくり作られたパンには愛がこもっている。それを余裕を持って味わう人達。なんとも豊かなことではないだろうか。
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