新緑が眩しく、日も長くなってきた。5月のミラノは、薫風が心地良く実に最高だ。昨年の5月末、世界的にデザインの街として知られるミラノにオープンしたADI Design Museum。もともとミラノ市内にあるトリエンナーレがデザインミュージアムとして有名であるが、こちらはイタリアンデザインの歴史そのものと言える約2500点のコンパッソドーロ賞受賞作品コレクションの常設展示に加え、未来 へ向けて若い才能を生み出していくために、時代の変遷に 応じるイノベーティブな機能を循環させていくデザインハブ施設としての役割を担っている。

ADIは、イタリアで最も古い工業デザイン・アソシエーショ ンであり、コンパッソドーロ(黄金のコンパス)賞とは、工業デザインに与えられる世界で初めての賞としてジョ・ポンティとアルベルト・ロッセッリによって発案され、更に製品の文化的価値を高め、品質とデザインを 目標とするメーカーの成長と誕生に対する刺激になると考えたラ・リナシェンテ百貨店の後押しによって立ち上げられたものだ。

コンパッソドーロ賞第一回目の1954年から現在に至るまで受賞作品が年ごとに一つのボックスにまとめられ、完成した製品だけでなく、メーカーや技術者、あるいは個人から提供された、 製造に至るまでの過程を証言するさまざまな貴重な資料も公開されている。写真は1954年受賞作品に選ばれた15点の中でも特に有名なブルーノ・ムナーリが新素材ポリウレタンを実験的に用いた玩具、「zizí」。2枚目の写真も同じく1954年受賞作品であるタイプライターや家具。

写真は期間限定展示の「Uno a Uno. La specie degli oggetti」。コンパッソドーロ賞コレクションをより深く理解するために、時代が隔たる異なる作者によって作られた家具や食器などの工業製品の受賞作品を、カテゴリーごとに二点一組で比較。時を経ても変わらないモノの本質、消費者層の好みや社会的背景、新技術の開発から生まれたデザインの変遷を感じ取ることができる面白い展示方法だ。

こちらはミュージアムスペースの出口にある常設展示であるポスター展。工業デザイン、グラフィック、建築の分野において20世紀に名を刻んだイタリアの天才たちが作り上げた素晴らしい遺産を称賛すると共に、企業、団体、デザイナー、製品などコンパッソドーロ・キャリア賞を受賞した139作品へオマージュを捧げたものであり、ADI DESIGN INDEXに選ばれたクリエーター、ベテランクリエーター、そして若手がそれぞれのキャリア賞へ、グラフィックデザイン、イラスト、コラージュ、タイポグラフィなどを介して思い思いに 敬意を視覚的に表現しポスターという形を介して前世紀と今世紀の2つの創造力が一つになっている。ずらっと並んだルネッサンス時代の図書館で使われていた書見台をモデルにした展示方法で、自宅でもイタリアンデザインに触れることができるようにと自分が1番気に入るポスターを各々が選んで持ち帰ることができるので、どれにしようかとワクワクする時間を味わえる面白い展示だ。

サスティナビリティそしてデジタル化を意識し、イタリアで初のデジタルチケットのみのミュージアム入館を実現したこのミュージアムは、 国際的にデザイン文化の価値を広める活動へ貢献することを目的としての展示のみならず、シンポジウムの開催から子供達がデザインに親しみを持てるような機会を設けたり、展示を見なくてもカフェ及びライブラリースペースにて読書をしながら過ごしたり、ビジネスミーティングの場としても活用できるなど新しい文化的複合施設として機能している。ミュージアムショップに並んだバラエティ豊富なラインアップも要チェック。来月開催のミラノサローネにおいても外せないスポットだ。